2002.03.09-10 冬にさよなら


☆3月9日(土)  千手が浜へ

昨日が送別会で午前様になってしまい、起きたのは結局8時を回っていた。さすがに眠い。パッキングをほとんどしていなかったが、これ以上出発を延ばすと現地到着が夕方になってしまいそうなので、とにかく出発することにした。家を出たのは9時を回っていた。

中央道はそれでも順調に走ったが、途中の電光掲示板は高井戸−三宅坂間12kmの表示である。ガソリンも少ないし高井戸で下りた。給油して下を走ろうと思ったが、下も結構渋滞していて、結局、再び永福から首都高速にのった。当然だが相変わらずの渋滞で、結局首都高速を抜けるのに2時間かかってしまった。やれやれ。

それでも東北道に入り、浦和の料金所を過ぎる頃には順調に走り出し、宇都宮のジャンクションで日光有料道路に入る頃は、道はガラガラだった。途中で雪を残す男体山が見え始め、やっと体に開放感が広がってくる。いろは坂には雪が無く、スタッドレスは不要だった。

赤沼茶に到着。公営の駐車場に車を入れようと思ったら、駐車場は1mの積雪が残ったまま閉鎖中である。入り口の路肩に車を止め、いよいよハイキング&キャンプのパッキングである。シュラフとテントを入れ、途中のコンビニで仕入れてきた食料を入れたら一杯になってしまった。気合いの入らないパッキングはこんなもんか(笑)。

スキーウェアを身に着け、スノーシューとストックを手に持って国道を歩き始める。道の両側は勿論積雪は残っているのだが、おそらくは1mも無いだろうと思われるほどの量だった。ま、それはそれとして、空は真っ青に晴れ上がり実にいい気分である。へっへっへっ、世間の皆様ごめんなさいってな気分である(笑)。シーズン中はハイブリッドバスが走っている道のゲートまで来てみると、ん・・・??、なんと除雪してあるではないか。なんだか拍子抜けである。ここから千手が浜までの8kmがまずスノーシューハイキングの出だしのつもりで居たので、肩すかしの気分だった。

それでも小田代ヶ原の先は雪も有るだろうとテクテク歩き始めた。道の両側の積雪は若干少な目だが、またしても、それはそれとして、ミズナラの梢越しに見える空は大好きな青空。『こんな青色が有っていいんかいな』、と、独り言をいいながらあるく。おそらくこの時の僕の顔を見たらニコニコ笑って居たのだろうと思う。

小田代ヶ原が近づいて来たので、ここでタバコ休憩にしようと思った。ポケットにタバコは入っているのだがライターが無い! あちゃ〜!ライターを忘れてきてしまった。タバコは吸わないでも何とかなるが、食事の準備をどうしようか。

行動食やオニギリも持ってきてはいるが、お湯が沸かせないと言うのは何とも痛い。引き返そうと思ったが、もう行程の半分は歩いてきてしまっている・・・。一瞬考えて、ふっと切り替えて、『ま、いいか。一日くらいはなんとかなるわい!』、と、強がりを言って歩き続けた。

小田代ヶ原に着いたら、工事用の車両がちょうどバス停に入ったところだった。
『すいません、火を貸して貰えませんか?』
『たばこ?』
『はい』
彼は車に戻るとカーライターに火を点し、『はい』と差し出してくれた。ずうずうしくも、あわよくばライターを譲って貰おうと思ったのだが、あいにくタバコを吸わない人だったわけである。トホホホ。

それでもバス停に腰掛けてタバコを吸っているうちに、『そうだ、このたばこの火を消さないで、千手が浜まで持っていけば良いんだ! 向こうに着いたらティッシュぺーを使ってバーナーに火を移せるかも知れない』、そう思い、小田代ヶ原から千手が浜まで、線香の火のように、1本無くなると、また1本と、チェーンスモーク状態で千手が浜まで歩いた。

小田代ヶ原から千手が浜のバス停まで、何本のタバコをつないで来ただろうか。梢越しに男体山がチラと見え始め、やっと到着である。

バス停は雪の中だった。締まった雪を歩いてバス停のあずまやに行ってみると、うまい具合にあずま屋の中には雪がない。ちょうどテント一張りぶんのスペースがある。思惑通りである。小田代から持ってきたタバコを焦げないようにイスに置き、念のためにと思い、もう1本のタバコにも火を点けて、テントを張る準備にかかる。

テントを張り終え、シュラフを出し、食料その他をテントの中に入れて、さてそれでは<火移しの儀>に入ろうかと思い、タバコを置いた場所を見ると・・・・、あっ!? タバコの先が押しつぶされて、2本とも消えているではないか!!

荷物整理の最中にうっかりタバコに座ってしまい、消してしまったのだった。あわてて、すっぱ、すっぱと吸ってみるが、なんとも虚しい行動だった。トホホホ・・・、小田代からここまでの、あの1時間、一生懸命つないできた作業は何だったんだ。ガックリと肩が落ちる。

しばらく落ち込み、それでももう一回気を取り直し、『ま、いっか。今日一日だけじゃないか、なんとかなるわい!』と、再びの強がりを言って、どうにか人心地をついた。

まだ日があるうちに湖岸まで行ってみることにする。湖に出て見ると湖岸の雪はだいぶ融けてはいたが、それでも浜全体には雪が残り、雪を残した男体山も青空に映えている。どんどん気分が良くなっていく。シューをはいて湖岸を歩き回り、写真撮影をして歩いた。雪は結構締まっていて、ギリギリ、シューなしでも歩けるかなぁ・・というくらいだった。

撮影を終えて、さて帰って夕ご飯にするかなと思い、川を渡り、再度シューを着けるときに、最後のあがきで『やっぱ、どっかに無いかなぁ・・・』と、あちこちのポケットをまさぐってみる。と・・・・、あれ!? スキーウェアの下のジャージのポケットにそれらしい感触! ジッパーを下げジャージのポケットに手を入れると、あったぁ! 2個も入っているではないか。

『そうだよな、俺が忘れるわけないよな。準備の時に、気温が下がって着火出来にくくなったら困るので、念のため2個持っていこうと用意したくらいだからなぁ』、などど、急に偉そうに長い独り言である(笑)。

本音では、『いやぁ〜、ホント、よかったぁ』てな気分だった。

テントに戻りまずはコーヒーである(^^)。ピークワンに火を点けて、ボー!という音が、なんとも心強かった。ゆっくりコーヒーを飲み、コンビニで買ってきた弁当を食べると、ほかに何もする事がない。ヘッデンを、これは正真正銘忘れてきてしまったので、夜の明かりが無い。携帯の電波も、浜から回り込んだこのバス停には届かない。圏外表示である。

んじゃ、今度は千手が浜の夕景色でも見に行くかぁと、再度、浜に出てみる。対岸の明かりがチラチラ見え始め、人工の灯りってのは、こんなにも心強いものなんだなぁ・・と、妙に納得しながら、暮れていく湖を飽きずに眺めていた。

寒くなってきたので、テントに戻り、シュラフに潜り込む。風も無い、実に穏やかな夜だった。無音の状態が心細く、でも、それがなんだか妙に心地よく、『こんな一人ぽっちのテント泊も久し振りだなぁ・・・、へっへっへ・・』、と独り言を言って、眠りについた。




☆3月10日(日)  西の湖へ

目覚ましの携帯が4:30に鳴った。長い夜だった。夕べは随分と早く寝てしまったので、夜中に何度か目が覚めた。テントを出て見るとそれはもう凄まじいほどの星空だった。深呼吸を一つ。それほどの寒さでは無いとはいえ、ペットボトルの水が少し凍っている。−5、6度といったところだろうか。

ヘッデンが無いのでライターを着ける。テントの中がボッと明るくなる。闇に慣れた目にはやけに明るく感じられる。テントの中でピークワンに火を着けるとボーっといい音だ。ものの10秒でテントの中が暖かくなる。火はありがたい。寝そべってテントから首だけ出してタバコを1本吸う。この時間が好きだ。日の出にはまだ少し早いが浜に出てみようか。2時間は浜に居ることになるだろうから、持っていったセーターを着増し、ホカロンを腰や股に沢山張り付ける。食料とバーナーを手に提げて浜に出てみた。

山のこちら側のテン場はまだ薄暗かったが、浜に出てみるともう男体山の裾がほんのりと明るくなっている。明けそめる山の端に三日月がかかっていた。そして、その三日月が湖水に靜かに映っている。空の色は紫とも紺とも緑とも言えないような、僕にはなんとも表現のしようがないような色である。それはそれは幻想的な風景だった。あわててシャッターを切る。この空の色は、そう何回も見ることは出来ないんだろうなぁ・・・。シャッターに手応えがあった。

タバコを吸っているうちにみるみる明るくなっていく。夕べの心細さを考えると、やはり光はありがたいものだ。刻々と色を変えていく景色が嬉しく、ワクワクしながらシャッターを押していた。

そろそろ日の出かな、と思う頃、一組のカップルが現れて、雪の上をこちらに歩いてきた。『ふ〜ん、こんな季節の、こんな時間帯に、やっぱりここに来る人たちも居るんだなぁ・・・、何時に出てきたんだろう・・?』、とちょっと嬉しかった。・・・・・・・、と、よく見るとなんと佐伯さんご夫婦である!

掲示板に書き込みはあったが、まさか本当に来るとは思わなかった。”友遠方よりきたる・・・・”、なんとも嬉しかった。道を間違えたいきさつやら、昨日のテント泊の様子やら、いろんな話しをしてるうちに、突然、太陽が上がった。当たり前だが、なんの前触れもなく、ホントに突然という感じでいつもの金色の太陽がキラリと顔を出した。話しは中断して、あわててあちこちを歩き回って、シャターを切った。上がり始めた瞬間、朝日が雪に反射し、それが綺麗なピンクに染まり、一瞬の色だったが、思わず『う〜・・』と、声を出してしまった(笑)。

撮影も一段落し、また桟橋に戻り、ゆっくりコーヒーを淹れたり、佐伯さんが持ってきてくれたお汁粉を頂いたり、ノンビリ朝食をした。太陽も少し高くなってきたので、西の湖にハイキングに出かけることにした。お二人はスノーシューを赤沼の駐車場に置いてきてしまっていたが、雪が結構締まっているので、なんとか西の湖までは行けそうな感じだった。

一人でバス停まで戻り、テントをたたみ、再度のパッキングである。今度は少し気合いを入れてパッキングした。2人のところに戻り、さて西の湖に向けて出発である。普段なら倒木や藪があって歩けそうもない巨木の森を3人で楽しいハイキングである。誰かが残したXCスキーの跡を目印に西の湖を目指す。途中のミズナラの巨木の下で休憩をして記念撮影。

西の湖入り口の吊り橋まで来てみると、下を流れている川が雪で埋まっている。思わず嬉しくなって川の上で吊り橋をバックにこれまた記念撮影である(^^)。この風景も春や夏ではあり得ない風景である。

   

西の湖は全面結氷していた。思わず『わ〜!』と声が出る。歩いて向こう岸まで行ってみることにする。夏にはこのルートは当然無理だし、湖の周りの藪をこぎながらここまで来るとしたら、それそそれで結構大変な作業である。今日は、アッという間に着いてしまった。振り返ると、ここからは男体山がよく見える。何度も通ってきている西の湖ではあるが、ここから男体山が見えるとは思わなかった。これまた普段は撮影できないアングルで何枚か撮影した。

湖岸に戻り、お湯を沸かしお昼ご飯である。ノンビリ休んでいると、XCスキーで3人の男女がやって来た。『こんにちは!』と声をかけてきた。話を聞いてみると、地元の方々で<滝探検隊>というグループで、ここらあたりの沢という沢は、ほとんどつめているとのこと、《隠れ滝》という名の滝の話しを聞き、夏にはぜひ一度沢を歩いてみたいものだなぁ・・と、強烈に思った。

すこしそんな雑談をした後、僕らはいよいよ帰路に就く。林を抜けてバス通りまで出て休憩を取った。シューをはずし、手に持ち赤沼茶屋を目指して歩き始めた。弓張峠の手前で1回、小田代ヶ原で1回、それぞれ休憩を取り、ノンビリと赤沼茶屋に戻ってきた。車に着いてスキーウェアを脱ぎ、靴を取り替え、一服して<やしおの湯>に向かう。

ゆっくり温泉に浸かり、『ふ〜! 今回も癒し系のキャンプだったなぁ・・・・』と、この2日間を思った。

冬、さよならキャンプ。こんな時間があるから、野遊びがやめられない。